1968年のバイク世界一周旅行

その40


雨の中西部


グランドキャニオンからオクラホマ・シティまで約千百キロ、
この区間は大げさに表現すれば、
ずっと下り坂だったような気がした。


やっと平地へたどり着いたような気分であったが、
空模様がおかしくなってきた。
テキサス州のような澄み切った青空は、
いつの間にか消え、雲が垂れ始め、
一気に夕立のような大雨が降り出した。


バイクで雨の中を走った経験のない私は、
レストランへ駆け込み、雨のやむのを待つことにした。


日本とアメリカの中西部では、雨の降り方まで違うのか、
降りだした大雨はやむ気配がない。稲光までし始めた。


「トルネイド(竜巻)が来るかも」とウェイトレスが言った。
春から夏にかけ、この一帯は中西部の特有の気象条件で
雷雨が発生しやすく、
トルネイド・アレー(竜巻の通り道)といわれ、
年間五十個以上の竜巻が発生すると彼女は言った。


このレストランでコーヒーのお代わりをもらいながら
彼女と雑談しながら、半日粘ったが雨は止まず、
ウェイトレスに教えてもらったモーテルへ、
びしょびしょになって駆け込み、
たっぷり雨水を吸い込んだバッグの衣類を取り出し
暖房機の上に並べ、冷え切った体をバスタブに沈め温めた。


モーテルの周りは見渡す限り大平原が広がり、
ルート66の向こう側にレストランを兼ねた
ガソリン・スタンドが一軒あるだけだった。


何もすることがないので、
日記代わりに友人や知人に手紙を書いたり
ベッド寝そべって、テレビで何度も見たような古い
モノクロ映画を観る以外、暇をつぶす方法がなかった。


テレビの天気予報によると、この雨は数日続きそうであった。
急ぐ旅ではないが、孤立したような大平原のモーテルで足止めされると、
先へ進めば雨も上がり、素晴らしい景色や経験が
待ち構えているような気がして、少しでも前へ進みたいという
衝動が強くなり落ち着かなかった。