1968年のバイク世界一周旅行

その21


私は休憩中、武藤さんが話す
過去の日系人の生活体験を聴くのが
楽しみだった。


こんな話もあった。


武藤さんは戦前
日本人学校の教師をやっていた。


真珠湾が攻撃され、戦争が始まると、
教師である武藤さんたちは
スパイ容疑をかけられ、
すぐFBIに連行され、
家財道具を二束三文で処分し、
家族ともども、マンザナ強制収容所へ入れられた。


マンザナ強制収容所は
米本土に十か所設けられた日米戦争中
日系米国人を強制的に収容した一つで、
中部カリフォルニア、シエラネバダ山脈の砂漠にあった。


夏は気温五十度を超えるときもあり、
冬は四千メートル級のホイットニー山から
吹き付ける空っ風と砂塵で
非常に寒い環境であったそうだ。


その上、粗末なバラック作りの収容所の建物は
床板の隙間から砂塵が部屋の中へ吹き込み、
夜ベッドに入ると
屋根の隙間から星が
きれいに見えたもんだと
懐かしそうに話した。


収容所の中では日系人同志、
「あいつはアメリカ組だ!」と疑心暗鬼になり、
「犬退治」と称して、棒切れをもって日系人同志の襲撃する
事件もあったそうだ。
そのため収容所のコーヒーには精神安定剤が入れられ、
まずくて飲めたシロモノではなかったと
苦笑しながら話した。