1968年のバイク世界一周旅行

その22


墓では、朝早く事務所に出て
コーヒーを沸かす順番制があった。
皆、このコーヒー沸かしが嫌であった。


事務所は樹木に囲まれ薄暗く
その前には火葬用に焼却炉があり、
事務所の壁には、火葬された身元不明の人々の
生ゴムで作られた何十ものデスマスクが
ぶら下げられており、


その隣の作業場には
板切れで作られた火葬用の棺桶が
無造作に積み上げられていた。


このような光景に囲まれての
コーヒー沸かしが楽しいはずがない。
実に不気味なものであった。


白人スタッフは火葬あと、
火葬された灰を焼却炉から小さなスコップで
コンクリートの地面に取り出し、
灰の中から金歯を拾い出し、
ガラス・コップに貯め、時々、どこかにそれを売りに行き、
臨時収入にしていた。


我々も遊び半分で、板切れを使い
恐る恐る灰をかき回し、金歯集めを手伝った。


灰はビール缶のような器に入れ、
小さなスコップで、小さな穴を掘り、
そこに埋め、石板で蓋をして完了。
一件、三百ドルの葬儀であった。


慣れとは恐ろしいもので、
そのうちに、何とも思わなくなった。
彼らの臨時収入はほかにもあった。


火葬する「仏様」が葬儀屋から運ばれてくると、
「仏様」を自分たち造った板切れの棺桶に
移し替え、葬儀屋から運んできた立派な棺桶は
葬儀屋へ買い取らせていた。


葬儀の日は、医大の女学生が中古の車で来て、
葬祭室で死に化粧のバイトをしていた。
我々と顔が合うと
「見るか?」と、奥から誘ったが、
彼女の親切な?誘いにはいつも、
「ノー・サンキュウ」だった。
一体、三十ドルの高収入のバイトだと
自慢そうに笑っていた。