1968年のバイク世界一周旅行

その44


シカゴからナイアガラの滝までは約八百キロ。
日本語のガイドブックのない時代、
私の観光地の知識は、ほとんど観た映画からあった。


このナイアガラの滝の凄さを知ったのは、
マリリン・モンロー、ジョセフ・コットン主演の映画
「ナイアガラ」の影響である。


一九五〇年代、ナイアガラはアメリカ人の新婚旅行の
メッカであったが、
私が行った一九六〇年代は、ベトナム戦争が激しくなり、
戦死者の数も日に、日に増加、アメリカ国民も
観光どころではなかったのか、
観光客の少なさが印象的だった。


落雷事故


バッファローから、ニューヨークの首都オールバニーまでは
約四百五十キロ、一日で十分走れる距離である。
ついに、ニューヨーク近くまで来たかと、気分良く走っていると、
ハイウェイと、それに沿って伸びる電柱だけの草原に夕闇が迫り、
落雷が始まった。


びしょ濡れになりながら、四十キロほど先のオールバニーを
目指していると、
突然、目の前で轟音と共に稲光が走り、バイクごと横転した。
一瞬の出来事だった。


バイクはハイウェイに横転したまま、ヘッドライトは雨に濡れながら点いていたが、エンジンは切れていた。


雷がどこに落ちたかわからなかったが、
周りに避雷針になるのは、電柱か私のバイクだけであった。
今度は、私に落ちるのではないかという恐怖心が全身を覆い、
びしょ濡れになりながら、ハイウェイの側溝へ飛び込んだ。


幸い怪我はなかったが、
この時の落雷がトラウマになり、今では小雨の中でも
ゴルフもする気にならない。


しばらくして雷が遠のき、側溝から出てバイクを転勤すると
エンジンを包んでいるクランクケースが壊れ、
オイルが流れ出していた。
エンジンは完全にアウトであった。