1968年のバイク世界一周旅行

その56


フィレンツェからピザへ


ローマ観光に二日ほど費やした後、のどかな田園地帯を北へ三百キロ、車道から脇道へ細い農道を上がると、
葡萄畑に囲まれた小高い丘に、フィレンツェのYHはあった。
朝食は葡萄棚の下に並べられたテーブルで摂り、デザートは葡萄を適当に取り食べることのでき、旅の中でこのYHは忘れられない一つである。


フィレンツェの町は私が訪れた二年前、
一九六六年の大洪水で、建物や文化遺産が大被害を受け、
復興工事のさなかだった。


フィレンツェが「ルネッサンス発祥の地」であることは知っていたが、それが、何であるかも知らず訪れたが、


十四世紀から十六世紀にイタリアを中心に西欧で興った
古典古代の文化を復興しようとする
歴史的文化革命というか、運動のことであることを
知っただけでも、ここを訪れた意味があった。


それと同時に、旅に出る前には少しは旅先のことを
調べて行くほうが、より楽しみがより増えると実感した。


街の中を流れるアノル川に架かるフィレンツェ最古の橋、
ヴェッキォ橋の両側には彫金細工店が軒を並べ、
ミケランジェロ広場からは、赤瓦一色の落ち着きのある、
美しい市街地が望めた。


ローマのYHであったKは
ヒッチハイクのため、私に遅れてYHに着いた。
二人でフィレンツェ観光を楽しんだ後、Kはイタリアのミラノへ、
私は南西約七十キロの、地中海に近いピザの斜塔を訪れることにした。