1968年のバク世界一周旅行

その58


地中海に沿って


私はフランス南部、一般道路を地中海に沿って西へ向かった。
道路は狭い一車線か二車線で、カーブが多く、
片側は地中海で反対側は小高い丘が続き、
赤瓦の高級住宅や別荘が点在し、
アメリカのウエスト・コーストに似た風景であった。


暑い七月、バカンスシーズンが始まったらしく、
狭い道路を多くの車がノロノロ走っていた。


ところどころで、渋滞にいらだった運転手たちが
車から降りて、口論をしていた。
バイクの私は、そのような光景を横目で見ながら、
スイスイと走り抜けて行けた。


細い曲がりくねりった道路、切りだった山を上り下りし、
聞きなれた、サンレモ、モナコ、ニース、カンヌなど
音楽祭や映画で有名な、地中海の華やかな地名の町を
走り抜けたが、訪れて、初めて正確な位置を知った。


地中海沿岸の風景は、アメリカ西海岸の風景を見慣れていた私には、感動するほどでもなかったが、
ホテルで食事を摂ろうとしても、ライダー姿では
スタッフの冷ややかな視線が気になり、道路端で立ち食いであった。


バカンスシーズンの地中海沿岸、コートダジュール一帯は
道路も観光名所も車や人で混雑し、のんびり観光とはいかず、
一日中走って夕方にはYHに入るという、
まるで朝通勤に出かけ、夕方帰宅する
勤め人のようで、単に走行距離を稼ぐ旅で疲れた。