1968年のバイク世界一周旅行

その72
 
二人と別れた私はミュンヘンからハンブルグ、
ルーベックを通過し、さらに、その北ブットガルテンから
フェリーでバルト海を渡り、
デンマークのレズビュハウンに着いた。


そこから農業国らしい広々とした田園の中を
コペンハーゲンを目指し走った。


デンマークといえば、
アンデルセン童話「人魚姫」を題材に造られた人魚姫の像
チボリ公園が有名である。


この人魚姫の像の高さは80センチと
写真と違い実物は小さく、像の向こう側には海を隔てて
造船所が見え、
「世界三大がっかり」と評されるのも納得であった。


一般的には人魚といえば、
下半身は魚のシッポと相場は決まっているが、
モデルの足があまりにも美しく、魅力的であったので、
制作者は、この人魚姫の像の下半身を足にしたそうだ。


1968年当時、インフレで賃金の高いコペンハーゲンの町には
学生運動で大学が封鎖され、運賃の安い、
シベリア横断鉄道やアエロフロート航空を利用して
ヨーロッパを旅していた日本の若者であふれ返っていた。


駅近辺のレストランの片づけや皿洗いのバイトをしているのは
ほとんど彼らだった。
YHの長期滞在者はほとんど日本人若者で、
この町で稼ぎ、次の目的地へと旅を続けていた。


コペンハーゲンのYHに着いた翌朝、
私は目が覚めると疲れがひどく、
ベッドから立ち上がれなくなった。


YHにはチェック・アウト時間があったが、
私は特別に許可をもらい、人影もない三段ベッドの並ぶ部屋で
朝食も摂らず横になっていた。
だが、昼過ぎになると気分も良くなり、
夕方になると、朝の疲れがウソのように元気になり、
このYHで知り合った日本人若者たちと居酒屋に行ったり
チボリ公園に行き、何時までも明るい北欧の夏を楽しんだが、
また、翌朝には体調がわるくなるという状態が、
一週間ばかり続いた。


疲れとばかり思って医者にもいかなかったが、
後年、疲れの原因が低血圧症であることを知った。


体調がよくなると、コペンハーゲンの郊外約40キロ、
シェークスピアの「ハムレット」のモデルになった
クロンボー城などを見て回った。
城の近くには海岸があり、
多くの人々が日光浴していたが、
夏とはいえ北欧の海は冷たく、誰も泳いでいる人はいなかった。
海峡の先にはスウェーデ―ンが望めた。