1968年のバイク世界一周旅行

その83


砂漠と強盗のイラン・アフガニスタン越え


イラン・トルコ国境でハシシ(麻薬の一種)を所持していた
ヒッチハイカーが逃げようとして、
イラン国境警備兵に射殺されたと聞いていたが、
粘土造りのイラン国境検問所の、簡素な部屋で簡単な入国手続き終えると、
私は兵士たちに紅茶やタバコなど、
親切なサービスのもてなしを受けた。


晴れた日にはイラン国境検問所から40キロほど北の
アルメニアが見えるそうだが、曇り空で何も見えなかった。


イランに入ると砂漠地帯になり、首都テヘランまでは緩やかな下り坂のように思た。雨は止んでいたが、砂漠に囲まれた舗装道路のいたるところに
砂で汚れた池のような水たまりができており、
大きいものは直径20メートルほどもあった。


ひょっとして道路は陥没して、深い水たまりかもと
不安になり、前へ進めなかった。


道路脇の砂漠は雨で泥沼のようになっており、
砂漠の中を迂回することなどできなかった。


助けを求めるすべもない砂漠で、エンジンに水が入れば一巻の終わりである。私はバイクを停め、水たまりの深さを測るため、
恐る恐る、一歩一歩ゆっくりと足を滑らすように
水たまりの中へ入り深さを測った。


ブーツの中は水浸しになり、エンジンの高さまであったが
何とか行けそうであった。私はエンジンを始動させ、押しながらこの水たまりを抜け出した。


私がバイク旅行した50年前は、
ホメイニー指導者のイラン革命も、まだなく、
アメリカの影響下、サングラス、ミニスカート姿の
若い男女が街角では見かけられ、西側諸国と何ら変わらない
近代的なテヘランであった。


砂漠に囲まれたこの町からは、遥か北のアズボルズ山脈の雪が見え
昼は暖かいが夜は冬のように寒かった。


シルクロードの交易で栄えたテヘランのバザールは
迷路のように奥へ広がり、
ペルシャ絨毯やアラビアンナイトの物語に出てくる
金銀細工のランプなどの製品が所狭しと並び、
多くの買い物客で賑わっていた。