1968年のバイク世界一周旅行

その84


テヘランから東へ走り出す。
目指すはアフガニスタンである。


テヘランの町を一歩郊外に出ると
あの近代的な都市がウソのように、
そこから先は水平線まで砂、砂だけの砂漠であった。
 
この先、本当に町がるのだろうかと不安になった。
確かめるために地図を広げると、
ボールペンでなぞったような線の所々に
アラビア文字で、町らしい名前が印刷されている。


未知の世界へ突入する私には、それがどの規模の集落か
全く見当がつかなかった。


今まで給油してきた常識的なガソリン・スタンドはあるだろうか、
水、食事などと贅沢は言わなおが、食料は手に入るだろうかと、


この砂漠を前に、エンジンを切り、バイクにまたがったまま
目の前の砂漠に目をやり思案しするが、
自分を勇気づけるというか、
納得させる回答は見いだせなかった。
 
反面、サハラ砂漠なら水もなく餓死することも考えられるが、
今見てきたテヘランの町の近代的な建物からして、
それはあり得ないだろうと、意を決しエンジンを始動させた。


最近映像で見たが、
この砂漠の中に近代的なアスファルト道路ができ、
高級な車やバス、トラックなどが気持ちよく走っている。


50年前、この道路は舗装されておらず、
小麦粉のようなきめ細かい砂の中に、
タイヤ跡が残っており、それで道だと判別できた。
交差点も交通信号も交通標識もない。
だから制限速度もなかった。


バイクのタイヤは、きめ細かい砂漠の砂の中に潜り込み、
やっと動いている感じのスピードしか出なかった。


空回りするタイヤは砂塵をもうもうと噴き上げ、
それから目を守るため、フランスで土産に買った
高級なネッカチーフというか、
風呂敷に目穴をあけ首から上を覆い、
その上にゴーグルをつけて走るが
気休めに過ぎなかった。


砂塵はまるで生き物のように体中に侵入し、
私を苦しめたが、それもいつの間にか慣れてしまった。


私は両足でバランスを取りながら、数え切れないほどの転倒を繰り返しながら、千キロほど先にメシャッドを目指した。