1968年のバイク世界一周旅行

その85


悪戦苦闘しながら、どれくらい走っただろうか。
砂道の脇に屋根を太陽を遮るように、
むしろで覆った小さな掘立小屋があった。
周りには、この小屋以外、建物はなかった。


何となく「食堂」のような感じの掘立小屋であった。
私はバイクを停め、中にいたターバンを巻いた
中年男に確かめると、
「レストラン」だと言った。


たしかに、小屋の中にはうっすらと砂埃をかぶった、
テーブルと長椅子があった。
手まねで、腹が空いた、何か食べ物はあるかとたずねると、
これだと言って、窯で焼いたヌン(パン)と、
ウイスキーグラスのような小さなコップに
どっさり砂糖を入れた、甘すぎるほど甘いチャイ(紅茶)を持ってきた。


文句など言えなかった。文句を言うと食事にありつけないと思い、
愛想笑いしながら、のどに詰め込むように食べた。


食べ終わったところで、バイクを指さしながら
「この辺にガソリン・スタンドなるものはあるか」と聞くと、
掘立小屋の横にある「ドラム缶」を掌で叩きながら
「これだ」と不愛想に示した。


この「レストランのオーナー」との会話で、
私は中近東を走りながら、食べ物とガソリンを手に入れる
知恵というか情報を得た。


最近、世界で最初のバイクで世界一周したのは
1910年代アメリカ人だと知った。


1960年代、私が世界旅行した頃でも
砂漠の国では、二気筒のバイクのガソリン、
特にオイルを手に入れるのに苦労した。


1910年代、欧米では自動車産業が発展し、
すでにガソリン・スタンドのあったことは
間違いないと思うが、
当時、中国や日本では、まだ自動車は普及しおらず、
ガソリン・スタンドもなく、いったいどのようにして
彼はガソリンを手に入れたのだろうか?