1968年のバイク世界一周旅行


その52


リスボン バイクはナポリへ


一九六八年六月十八日の深夜
ニューヨークを出港して八日目、リスボンに入港した。
下船手続きは終わり、
私のパスポートはだけが、客船の下船口、臨時の入管事務官のデスクにポツンと忘れられたように置かれていた。
私が彼に問いただすと、ポルトガルのビザがないので
下船できないと言った。


ポルトガル・ビザの必要性について、ニューヨークの旅行社も
乗船するときも、私は知らされていなかった。


大雑把であるが、リスボンで下船後、私の計画では、
地中海沿岸を東へ走り、イタリア南部へ行き、
そこから船でエジプトへ渡り、アフリカ北部を西へ走り、
モロッコあたりからスペインへ上陸し、ヨーロッパを旅する
というものであった。


バイクは、すでに、リスボン港に降ろされているかもしれない。
私はリスボンで下船できず、次の寄港地ナポリヘ
行くはめになる。そうなれば・・・・。
様々な今後の問題が、一瞬、頭を駆け巡りパニック状態になった。


もう周りには人影もなく、入管事務官がデスクを片付け始めた。
そこへ、この船会社の現地スタッフが通りかかった。
私はデスクのパスポートを取り上げ、入管事務員に背を向け、
現地スタッフに、ささやくような小さな声で事情を話し、
パスポートに5ドル紙幣を挟み渡した。
すると、スタッフは入管事務官と顔を寄せ合うようにして、ひそひそ話を始めた。
「OKだ!急げ!すぐ船は就航するぞ」と、スタッフは私に声をかけた。
私はバッグやヘルメットを抱え走って岸壁へ降りた。
岸壁でスタッフに、
「オレのバイクは?」と聞くと、
「大丈夫だ。明日の朝,ウチのスタッフが迎えに行くから」と言って、その場で予約を入れてくれたB&Bまでタクシーで送ってくれた。