1968年のバイク世界一周旅行

その8


食事代は$1ぐらい、
日本で稼ぐ一日のバイト代ほどの
高さであった。


ウェイトレスは、チップなるものを請求した。
チップにいくら払えばいいのかもわからず、
ポケットから小銭を出し、テーブルに並べると
彼女は、一番大きい形をした25セント・コイン
をつまみ上げ、エプロンのポケットに
ポイッと愛想笑いをしながらほり込んだ。


今も、このチップ制度を頑なに守っているアメリカ・・・。
もういい加減この習慣を
止めるべきヤと思うのだが・・・・。


ホテルのロビーには客は少なくガランとしていた。
そこに、当時、人気のあった東宝の映画「駅前音頭」の撮影に来ていた
俳優の森繁久彌、伴淳三郎、フランキー堺、三木のり平たちが
観光へ出かけるためか、たむろして立ち話をしていた。


ビーチも大通りも人影はまばら
であった。


夜、ホテルで知り合った日本人と
アラモアナ・ホテルの庭で催される
フラダンスを恐る恐る見に行った。
ニューヨークへ初めて出張するという
彼は外大であるが英語が通じないと、
不安そうに言っていた。


敗戦国、発展途上国から来た私たち二人は
着飾ったアメリカ人に囲まれ、
おどおどしながら
照明に照らし出され、
青々とひた芝生、ヤシの木、満天に輝く星の下、
色鮮やかなアロハ姿のミュージシャンが
奏でるハワイアン・ミュージックが響き渡り、
$1のビールを飲みながら
初めて見るフラダンスショーに、
たった八時間の違いの日本とハワイの距離に
こんなに違う世界があるのかと
夢見るような感動、感激の経験だった。