1968年のバイク世界一周旅行

その12


寝泊まりは
白ペンキがあっちこっち剝げた
粗末な掘立小屋で、
「ギイ・ギイ」と、錆びた音のするスプリングの利かない
埃をかぶった古いベッドの六、七個あり、その脇に小さな机と、
その上に電気スタンドがあった。


窓は一つしかなく、
昼間でも部屋の中は薄暗く、
天井から裸電球が一つぶら下がっており、
映画で見たアウシュビッツの強制収容所のようで、
最初は薄気味が悪かった。


だが、日本では扇風機の普及率がやっと
50%を越えた頃だったが、
アメリカでは、このオンボロ小屋でも
騒音はまき散らすが
古いエアコンが備え付けられ、
窓や入り口のドアは、見たこともない、
網戸の二重ドアになっていた。
なるほど、
これならハエ取り紙も蚊取り線香も
も必要ない。
さすが「アメリカ」だと感心した。



この葡萄農家には
二十棟ほどの小屋があり、
葡萄の収穫期には
百人前後の労働者が寝泊まりすると
サムは自慢げに言った。


小屋の外には囲いのない
トイレとシャワー向かい合わせに
十ほど平行に並び、
便器に座りながら隣のヤツと話し、
目の前でシャワーを浴びているヤツを
眺めながら
クソをたれる代物であった。