1968年のバイク世界一周旅行

その15


葡萄畑には夜間、
たっぷり水が撒いてあり
足元は泥んこになっていた。


作業に慣れない私は
葡萄の蔓を抱えたまま
何度もひっくり返り、シャツもジーンズも
あっという間に泥んこになった。


この作業を一時間も続けていると
腰がだるくなり、手も上がらなくなるほど疲れた。
労働者を管理するジョージは
トラックの上から我々を監視し、
「さぼるな!」と、大声で怒鳴った。


時間の経過とともに
上からは太陽がギラギラと容赦なく注ぎ、
下からは葡萄畑に前夜撒かれた水が
蒸発しはじめ、朝の寒さが嘘のように
蒸し風呂のように、熱気で蒸され、
タバコも湿気で火が付かなかった。
この暑さに働く気力も失せ、鼻血が出て目眩までした。


空は雲一つなく晴れ渡っていたが、
葡萄畑全体から蒸発する水蒸気で
太陽も霞み、
景色は白く揺れていた。


朝は元気のよかった老人たちも
午後からは口数も少なくなり、
時々、何が原因かわからないが、
時折、大声で罵り合いをはじめた。


四時、ジョージの手が挙がり、
七時からの作業は終わり、疲れ切り、口も利かない我々は
またトラックに乗せられ
オンボロ小屋に連れ戻された。
この光景は
まさにスタインベックの「怒りの葡萄」
そのものだった。


疲れ切った体をベッドに横たえると
体中が火傷したように熱く痛かった。
そんな私に、
怪我をして、ベッドに横になっている朝鮮老人が
缶ビールを差し出し、慰めてくれた。